ポスト不況時代の日本において、「人単合一モデル」が持つ戦略的意義

QLCチームがこのほど開催した国際経営セミナーに、日本をはじめとする国・地域の一流企業の経営陣やコンサルティング企業から、多数の参加者が集まりました。今回のセミナーは、「新たな知識経済の時代に日本企業はどう成功するか」をテーマに今後展開される一連のシンポジウムの第1回です。

今回のセミナーでゲストたちは「日本経済は過去30年で成長エンジンを失い、日本企業の海外での影響力も弱まってきた」と言及したうえで、「日本経済が停滞する一方で、世界経済は人工知能(AI)やモノのインターネット(IoT)などの技術による新たな知識経済の時代に入っている。日本企業にとっては、このチャンスをとらえて国際舞台で新たなスタートを切れるかどうかが重要になる」との見方を示しました。

また、ディスカッションでは、「この問題を解決するカギは人である」との共通認識が示されました。ただ人材を集めて管理するのではなく、社員が目標に向かって協力し、多様なビジネスを実現し、イノベーションを起こし、機会を開拓するためのビジョンと目標を達成するためのプラットフォームを構築することが、企業のリーダーには求められています。

この点について、ハイアールグループ(海爾集団)副総裁でハイアールジャパンリージョンのCEOを務める杜鏡国氏は日本における企業組織とビジネスイノベーションの成功モデルを紹介しました。ハイアールグループ独自の「人単合一モデル」は、人間を中心とする理念を実践に移した今までにないモデルとして、グローバル企業の中でも異彩を放っています。世界最大の家電メーカーであるハイアールは、この新しい経営モデルで素晴らしい業績をあげています。これはグローバル企業にとって実用的で実績のあるケーススタディであり、その日本での成功例からは、日本企業が新たな知識経済の時代に適応するための示唆を得ることができます。

杜鏡国氏は人単合一モデルの日本での実践について講演する中で、「人」は従業員を、「単」はユーザーのニーズを示し、「人単合一」は従業員とユーザーを結びつけるモデルであると説明し、「社員一人ひとりが自身のCEOとなり、市場にダイレクトに接する自己組織体を形成し、それぞれがユーザーのために価値を創造することで自らの価値を実現する。この人単合一モデルによって、ハイアールは倒産寸前の企業から世界最大の家電メーカーに転身した。このモデルはさらに、ゼネラル・エレクトリック富士通ヨーロッパ支社など、世界的な企業でも目覚ましい成果を収めてきた」と語りました。

「人単合一」のメカニズムの日本への導入当初は、それが黄金期に確立された日本固有の組織的特質を否定するものであることから、多方面からの抵抗を受けました。例えば、冷蔵庫部門の業績が良かったので、上層部が関係者にボーナスを支給しようとしたところ、中間管理職のほとんどがこれに反対しました。彼らの意見は「日本の企業文化はチームワークの精神で成り立っている。すべての従業員は平等に扱われ、ボーナスも平等に与えられるべきだ」というものでした。その後、半年近くにわたって議論と妥協を繰り替えした末に、チームはついに、年功序列ではなく、個人の貢献に基づいてインセンティブを与えることに合意しました。ハイアールジャパンチームはこのインセンティブ制度によって、市場に応じた目標を設定し、事業目標を個人のレベルに落とし込んで、個人目標とチーム目標を一致させています。目標へ向けた業務の内容は人事部門によって追跡され、経営陣によって評価されます。この変革がハイアールジャパンの業績を引き上げました。2020年の時点で、ハイアールは日本のハイエンド白物家電市場でのポジションを急速に高め、数々のヒット商品や革新的な商品を世に送り出すことに成功したのです。

杜鏡国氏はハイアールジャパンのチームを例に挙げ、「人単合一モデルの実施初期に、ハイアールジャパンはユーザーのためのイノベーティブなビジネスモデルを徹底するため、マイクロエンタープライズを立ち上げた。特筆すべきはコインランドリーを扱うAQUA(アクア)だ」と示しました。AQUA社は数年前、家庭用洗濯機では洗えない大きくて重いカーテンや布団などを洗う、コインランドリーという市場が持つ発展の潜在性とニーズを見出しました。そして、業務用洗濯機や乾燥機の開発に5億円を投資し、新技術の導入とイノベーションを継続することで、コインランドリーの利用におけるユーザーエクスペリエンスを向上させました。ユーザーはネットを通じて最寄りのAQUAのある店舗を検索し、洗濯機の空き状況を確認し、オンラインで洗濯の予約をすることもできるようになっています。

さらに、現在のAQUAは洗濯機の製造・販売だけでなく、IoT時代のクラウドシステムを通じて、幅広い異業種のパートナーとランドリーシーンのエコシステムを構築しています。そのパートナーには、ファミリーマートENEOS無印良品ほっかほっか亭などの有名企業も含まれます。こうした協力はパートナー企業に消費者をもたらし、消費者にも洗濯、生活サービス、ショッピングを含むワンストップで便利なサービス体験をもたらしています。AQUAは現在、日本全国のコインランドリー3500店舗に4万3000台以上のIoT洗濯・乾燥機を設置しています。このシステムにより、AQUAは消費者向けのハードウェア製品を提供すると同時に、事業者向けにカスタマイズされた地域のプラットフォームとしても機能しています。あるパートナー企業は、200店舗以上のコインランドリーを経営するために以前は300人の従業員を必要としていました。しかし、AQUAシステムを導入したことにより、本社からでもリモートで洗濯機の稼働状況がチェック可能になり、現在では30人で600店舗を運営できるまでにコストカットが実現しました。さらに、光熱費の使用状況や洗濯機の使用時間をリアルタイムで把握できるため、企業全体の粗利益を効果的に向上させることにもつながっています。

日本(および中国、米国、欧州)における人単合一モデルの成功は、知識経済の時代において、企業が業務の集合知と従業員の自己組織化という強みを活用することで、根深い官僚主義を打ち破り、迅速な革新を実現し、顧客との関係を深め、企業のコアコンピタンスを強化できることを実証しています。このような経営理念や組織モデルがさらに多くの日本企業に採用されるかどうかはまだ未知数ですが、期待して見守りたいものです。

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